アリストテレスは四元素と熱・冷・乾・湿についてなんと言っているか?
タロットや占星術などの西洋占術には、古代ギリシャの哲学者たちが考えた「四元素(火、空気、水、土)」の考えが影響を与えています。火は精神性、空気は知性、水は感情、土は物質などのシンボルと考えられています。また各元素は、熱・冷・乾・湿の4つの性質を2つずつ持っているとされます(例えば、火は熱くて乾いている、など)。
タロットでは小アルカナのスートに四元素が対応します。どのスートとどの元素を割り当てるかにはいくつかの考え方がありますが、現在一般的なものはこのシステムでしょう。
火:ワンド
空気:ソード
水:カップ
土:ペンタクル
空気の元素は「つなぎあわせる、共有する」性格があるとよく聞きます。しかしこの特徴は、空気に対応するスート、ソードという道具の特徴とはうまく結びつきません。剣はつなぎあわせるというより、切り離すためのものだからです。
「つなぎあわせる」空気の元素を、「切り離す」剣のスートと対応させた人はどのようにその整合性を取ったのかな、という疑問が浮かび、四元素についていろいろ調べることにしました。
その調査はまだ全然途中なのですが、もしかしたら空気の「つなぎあわせる」という特徴は普遍的なものではなく、ものすごく最近(ひょっとしたらソードと空気の対応ができた後に)ごく一部の領域で言い出されたものかもしれない・・・という気配もしています。またタロットと占星術でも、四元素の考え方はちょっと違う発展をしてきているのかもしれません。
いろいろ調べているうち、そもそも元になったギリシャの哲学者たちは四元素についてどう言っているのか?が気になりました。古代ギリシャの中でも色々な元素論の議論がありますが、特にアリストテレスは後の錬金術や四気質説(四元素による性格や体質判断)などにも影響が強かったと言われるため、今回はアリストテレスの元素説について調べたことをまとめたいと思います。
アリストテレスの四元素は自然科学
現在私たちが占いをするとき、四元素をシンボルとして扱い、人間のパーソナリティや状況の性質を傾向付けるものとして考えることが多いです。しかし、アリストテレスはシンボルではなく自然学として四元素を扱います。アリストテレスにとって四元素は月下の世界(地上や地下、月の軌道より下にある空の領域)にあるすべての物体の構成要素であり、霊的なものや心理的なものではありません。
物体には、一つの元素のみで構成された単純物体と、複数の元素が混じり合っている混合物体があります。私たちが観察できる火、空気、水、土は実際には単純物体ではなく、混合物体です。
元素は動き(重さ/軽さ)に関係する
アリストテレスは二つの単純運動を提示します。
円運動:完全な運動で、神的。天体の運動。
直線運動:円運動に比べて不完全。月下の世界の物体の運動。
アリストテレスの世界観では、大地は球形であり、その中心が宇宙の中心とも一致しています。円運動とは、大地を中心として天を天体が回転する運動です。直線運動には中心から離れる上方への動きと、中心に向かう下方への動きがあります。
円運動は天界の動きなので、月下の世界ではすべての物体が直線運動(上方へか下方へか)をしていることになります。
単純物体は自然本性的な動きを一つだけ持ち、混合物体は合成要素のうち優勢なものの動きに沿います。
火と空気:上方への動き
水と土:下方への動き
つまりこれは、重さの話です。火と空気は軽く、水と土は重い。
さらに、これらは「絶対的に」重いか軽いかと、「相対的に」重いか軽いかに分けられます。
火 :絶対的に軽い
空気:相対的に軽い(火に比べたら重いが、水と土に比べたら軽い)
水 :相対的に重い(土に比べたら軽いが、空気と火に比べたら重い)
土 :絶対的に重い
このため、水中にある空気の泡は水上に昇ろうとし、空中にある石は落ちようとする。他の物体によって強制されないかぎり、自然な動きとしてはこうなります。
宇宙全体は、中心に土があり、その周りに水があり、その周りに空気があり、その周りに火があり、その外側に天がある、という構造になります。それぞれの元素にはこの階層に従って「自分が本来いるべき場所」が決まっており、そこへ戻ろうとするのです。
熱・冷・乾・湿の4つの基本的性質
この4つは触覚で感じることのできる物体の基本的性質です。様々な感覚のうちでも、唯一、触覚にもとづく反対的性質が物体の形相と始原を構成しており、視覚における反対的性質(白い↔黒い)や味覚における反対的性質(甘い↔苦い)などは、物体の基本的性質を構成できません。なぜなら「触れることのできる」というのは、物体が物体であるかぎりにおいて持つ特性であるためです。
「熱い」は「冷たい」と、「乾いた」は「湿った」と、反対的性質を持っています。反対的性質を持った物体は、互いに作用を及ぼしたり、作用を受けたりします。
反対同士の性質にも、中間の様々な段階があります。熱と冷の両方があり、冷が熱の3倍ある、というように。
他にも触覚に基づく反対的性質には、重い↔軽い、硬い↔柔らかい、ねばつく↔砕けやすい、ざらざらした↔滑らかな、粗大な↔微細な、などがありますが、「熱い↔冷たい」と「乾いた↔湿った」が第一の基本的性質です。
この中の「重い↔軽い」は互いに作用し合わないということで除外されます(基本的要素は互いに作用し合うものでなければならないため)。他のものは、「乾いた↔湿った」のどちらかに属するものとされます。
乾に属する:硬い、砕けやすい、粗大な
湿に属する:柔らかい、ねばつく、微細な
熱い↔冷たい
「熱い」と「冷たい」は作用を及ぼすもので、「乾いた」と「湿った」は作用を受けうるものです。
熱:同じ類のものを集合させ、その結果として異質なものを取り除く
冷:共通の類のものも、同族的でないものも同様に寄せ集め、集合させる
熱と冷は両方とも集合を作りますが、熱は異質なものは排除し、冷は異質なものも集めるという差があります。
これらは集合させるものとして「作用を及ぼす」ものです。
乾いた↔湿った
湿:その形が固有の境界によって規定されないが、他のものによって規定されやすいもの
乾:その形が固有の境界によって規定されやすいが、他のものによって規定されにくいもの
つまり湿は、自分で自分の形を決められないが、他のもの(乾)によって形を決められる。乾は、自分自身の形を持っているが、他のもの(湿)に形を決められにくい。液体を器に入れたとき、器の形によって液体の形は決められるが、液体によって器の形は変わらない、という関係を考えるとわかりやすそうです。
これらは規定されやすいもの、規定されにくいものとして「作用を受ける」ものです。
4つの基本的性質の組み合わせ
熱・冷・乾・湿の組み合わせは全部で6つになりますが、反対のもの同士は組み合わせられないため(熱くて冷たい物体や、乾いていて湿っている物体は不可能)、組み合わせ4つとなります。この4つの組み合わせが、4つの元素に対応します。
火 :熱くて乾いている
空気:熱くて湿っている
水 :冷たくて湿っている
土 :冷たくて乾いている
これらは「作用を及ぼすもの(熱と冷)」と「作用を受けるもの(乾と湿)」のセットになるようです。
また、各元素の基本的性質は2つですが、「どちらかと言えばこっち」という性質があります。
火 :乾よりもむしろ熱に属す
空気:熱よりもむしろ湿に属す
水 :湿よりもむしろ冷に属す
土 :冷よりもむしろ乾に属す
基本的性質の点で言えば、火(熱・乾)と水(冷・湿)は反対、空気(熱・湿)と土(冷・乾)も反対の性質を持ちます。
しかし運動の点で言えば、火(絶対的に軽い)と土(絶対的に重い)が対極にある純粋なもので、空気(相対的に軽い)と水(相対的に重い)が中間にあるよりいっそう混合した物になります。
物体は変化し合う
すべてのものは、互いへ変化する自然本性を持っています。基本的性質が反対のものに向かうことによって変化が起きます。例えば、熱くて乾いた火の、乾が反対の湿に変化することにより、火は熱くて湿った空気へ変わります。
しかし二つとも反対の基本的性質を持ったものへの変化はより時間がかかります。熱くて乾いた火が冷たく湿った水に変わるためには、熱→冷、乾→湿の二つの性質の変化が必要だからです。
アリストテレス以前に四元素説を唱えたエンペドクレスは、元素自体は不変で、その組み合わせによって物体が変化すると考えました。基本性質を操作することで物体の元素が変化する、というアリストテレスの考え方は、錬金術の原理にもつながっていきます。錬金術には他の物質から黄金を作る目的があり、物質が別の物質に変化する方法を探求したのです。
各元素の特徴を簡単にまとめます。2つの基本的性質は、先に来るものが「むしろこっち」の方です。
火 :上方へ運動/絶対的軽さ/極、純粋/熱・乾/水と反対/集合を作り異質なものは排除/形を持ち他のもの(湿)に規定されない
空気:上方へ運動/相対的軽さ/中間、混合/湿・熱/土と反対/集合を作り異質なものは排除/形はなく他のもの(乾)に規定される
水 :下方へ運動/相対的重さ/中間、混合/冷・湿/火と反対/集合を作り異質なものも集める/形はなく他のもの(乾)に規定される
土 :下方へ運動/絶対的重さ/極、純粋/乾・冷/空気と反対/集合を作り異質なものも集める/形を持ち他のもの(湿)に規定されない
第一質量(プリマ・マテリア)について
アリストテレスには、四元素とは別に、まだどんな形相ももたない第一質料(プリマ・マテリア)の考え方があります。
第一質料と四元素の物質の関係性については、アリストテレスの研究者によって大きく二つの解釈に分かれているようです。
第一質料と基本的性質(熱・冷・乾・湿)が結びつくことにより、四元素の物質ができている。物質の基本的が変化しても、その基底として第一質料が存続している。
それを疑問視する解釈。物質の基本的性質が変化するときは、変化していない方の基本的性質が基底にあると捉えれば十分である。
空気は「集合を作り異質なものは排除」している
最初の自分の疑問に戻ると、アリストテレスの時点では「空気:つなぎあわせる、共有する」というキーワードがそのまま言われている訳ではないようです。どの元素も同族のものとは集合を作るので「つなぎあわせる」という意味はあります。しかし熱の性質を持った火と空気は、同族との集合を作っても異質なものは排除します。これはどちらかというと、剣の道具の役割に近いようにも感じます。
アリストテレスの説が現在の西洋占術に絶対的な影響を与えているのでこれを元に考えるべき、ということではありません。アリストテレス以前・以後の考え方にも色々あり、それらにも様々な影響があったと思われます。
四元素についてはまだまだ調べることが多そうです。またなにかわかったらご報告します。
参考文献:アリストテレス全集5「天界について」「生成と消滅について」
古事記スプレッド〈天照大神と須佐男命 その二〉
スサノオは国獲りの心はないと清明を証明したと思いきや、田の畔を壊し溝を埋め御殿に糞をまき散らします。アマテラスは咎めませんが悪行は止まらず、忌服屋に斑の馬を逆剥ぎに剥いで落とし入れ、服織女が驚き死んでしまいます。アマテラスは怖れて天の岩戸にお籠りになりました。
スサノオの悪行をアマテラスは咎めず善いように受け取ろうとしますが、それでも「もう無理!」となって天の岩戸へ閉じこもります。ここでは、あなたが受けれようとした問題と受け入れられなかった問題、そしてあなたの避難場所となるものをリーディングするスプレッドを作ってみました。
古事記スプレッド〈天照大神と須佐男命 その二〉
1.田の畔こわし:あなたが受け入れようとした問題
2.溝埋め :あなたが受け入れようとした問題
3.御殿に糞 :あなたが受け入れようとした問題
4.馬の逆剥ぎ :あなたが受け入れられなかった問題
5.天の岩戸 :あなたの避難場所
twitterハッシュタグ #古事記スプレッド でみなさんのリーディングを投稿していただいています。
今回もスプレッドにまとめるため、お話のいろいろな部分を省略しています。興味のある方はぜひ古事記そのものをお読みになってください。
参考:
武田祐吉訳注、中村啓信補訂・解説「新訂 古事記」(訓読文、現代語訳両方が入ってわかりやすい)
國學院大學 古事記ビューアー(オンラインで読めます。原文、訓読文、現代語訳、註釈、英語訳が自由に2画面表示でき便利。特に註釈が圧巻!)
最近の活動
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絶版本ですが、この本の復刊のリクエストはこちらからできます。最近、また票が増えてきたようですが、まだまだ足りません。ご興味ある方はぜひ復刊にご投票を!
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