スプレッドのポジションの意味と「空間への感受性」
スプレッドでは、カードを展開する各ポジションに意味が決められています。位置と意味との関係は、どのようにして決まるのでしょうか?
これには、私たちの空間に対する感受性が影響を与えています。感受性が「この空間のこの位置はこういう役割があって、こういう意味っぽい」という印象を持ち、その印象がポジションの意味を左右します。これは意識的な場合もあれば、無意識の場合もあります。
そして空間への感受性とは、私たちが生きている生活環境や文化によって左右されています。
上と下の関係
私たちは重力のある惑星に暮らしています。常に頭上に天を、足元に地面を感じながら生きています(吊られた男のように、いつも逆立ちして暮らしているのでなければ!)。重力のある環境は、私たちの感受性に「上方向には天がある」「下方向には地がある」という印象を常に植え付け続けています。
上と下、天と地、空と地面に関する感受性には、さらにこうしたものもあります。
視界に関する感受性:空はなにもない空間が広がっていて見渡せるもの。地下は土が詰まっていて見通せないもの
植物の生育に関する感受性:天には植物が枝葉を伸ばし、地には根を下ろすもの(上は目標、下はそれを目指す基盤)
宗教的な感受性:天の上には神と天国があり、地上は人間や生き物の世界で、地の底には地獄がある(聖と俗)
ヒエラルキーに関する感受性:上のものはより偉く、下のものはより卑俗。宗教的な感受性(天は神)を人間の上下関係に当てはめたものと思われます。
移動に関する感受性:天へは昇るもの、飛ぶ必要があるもの。地へは降りるもの、地下へ掘り進める必要があるもの
重量に関する感受性:天にあるものは軽く、地にあるものは重い
積み重ねに関する感受性:上に物を置く(あるいは自分が上に昇る)にはその下に土台となるものが必要
他にもいろいろなものがありそうです。例外はあるもの、基本的には自然現象に関係するものが多いです。
こうした天と地への感受性は、スプレッドの中で上と下との関係にあるカードの意味に影響を与えます。例えば上にあるカードは見通しのよいもの、意識できているもの。下にあるカードは隠されているもの、無意識下に潜在しているもの、などです。
右と左の関係
右と左は、上と下との関係での自然現象よりも、もっと文化的なものからの影響が大きくなります。
一番大きいのは「文字を書く方向」です。
世界の多くの国々では、文字は「左から右へ横書き」するものです。走らせているペンの左にはすでに書かれた文字が、右にはまだこれから文字の描かれる空白があります。文章を読むときも、左はすでに読んだもの、右はまだ読まれていないものです。
ここから、左にはすでに起きたこと(過去)、右にはまだ起きていないこと(未来)という時間の流れに関わる感受性が生まれます。
同じ横書きでも、ヘブライ語やアラビア語では「右から左へ」書かれます。こうした国々では、また違う感受性が発達しているかもしれません。
日本人は「左から右へ」の横書きと、縦書きの両方を使います。縦書きの場合は、上から下へ、右から左へ、という流れがあります。このときは「右が過去で左が未来」という感受性があってもおかしくありません。日本人はこの二種類の感受性を切り替えながら生きているかもしれません。(TAZNも、古事記スプレッドなど和のモチーフのものは縦書き時間軸の感受性で作っていたりします)
また左右の関係は、文字を書く方向と時間軸だけでなく、宗教・文化によって他にもいろいろな意味もあります。能動的/受容的、性別、位が高い/低い、聖/邪…などなど。どちらがどちらかも、文化によって異なります。
手前と奥、前と後の関係
手前と奥、前と奥は、自分を中心としたときの位置関係です。
目の前の視界内では、手前にあるもの方が自分と距離が近くなります。奥にあるものは、自分から距離が離れているものです。「手前とは近いもの/奥とは遠いもの」という感受性が生まれます。
また、自分の前にあるものは目に見え、後ろにあるものは見えません。「前とは見えるものがある方向、後とは見えない(気付いていない)ものがある方向」という感受性になります。
あるいは、人間は原則として前に歩くものなので、これから進む前方と、すでに後にしてきたもの、という印象もあります。前はこれから出会う未来、後は過去、という時間軸としての感受性も作られます。
前と後の関係がある場合、その中心にいるのは「自分自身」です。あるいは「中心となる人物や事象」、あるいは焦点の当たっているテーマ、時間軸で言えば現在ともなります。
水平なテーブルの上にカードを並べたとき、上下の関係が心の中でシミュレーションされています。手前にあるカードは手前であると同時に「下」とも感じ、奥にあるカードは奥であると同時に「上」とも感じます。この場合、天/地、手前/奥に関する感受性は、両方が混在しているか、スイッチしながらどちらか一方が働いているか、という状態になります。
重ねられるカード
一枚のカードの上に、別のカードが重ねられるスプレッドもあります。このときも上下関係の感受性が働きます。
ただし、今度は「水平面にシミュレーションされた」上下ではなく、重力方向に従った「本当の」上と下の関係です。そのため、上下関係によって生まれる感受性の印象もより強くなるかもしれません。
直接カードにカードが乗っているので、上にあるものが下にあるものを「抑え込んでいる」「自由を奪っている」「覆い隠している」「キャンセル、否定している」という印象にもつながります。
「空間への感受性」からケルト十字を見直してみよう
ケルト十字スプレッドの各ポジションの位置も、こうした感受性のパターンによって説明できます。1枚ずつ見ていきましょう。
ケルト十字の各ポジションの意味には、解説者により様々なバリエーションがあります。また、並べ方の順番も異なります。こうした差異は、それぞれの解説者の「空間への感受性の受け取り方の違いから生まれた」ものと考えてみることもできます。
1枚目のカードは中央へ縦位置に置かれます。これは「現状」という意味が当てられることが多いです。空間の感受性でも、中心は自分自身やメインのテーマであり、現在です。伝統的な方法では、このカードの下にシグニフィケイター(予め選んでおいた、質問者自身を表すコートカード)を置く場合もあります。質問者を中心とし、そこから天地左右の方向が生まれるレイアウトになります。
2枚目のカードは、1枚目に重ねて横位置で置かれ、小さな十字が作られます。「試練、葛藤、障害」という意味が多いです。上にあるカードが、下のカードを圧迫している、という感受性が働いています。
3〜6枚目のカードは上下左右に置かれます(順番は解説者により異なる)。下のカードは「原因、潜在意識、状況の基になっているもの」などの意味があります。上下関係の感受性での、土台となっているもの、という印象から来る意味合いです。
上のカードは「目標、ゴール」などの意味です。「質問者を王位につけるもの」と言われ、頭上に戴く王冠としてイメージされることもあります。上方向への感受性の、植物が枝葉を伸ばしていく先としての目標、ヒエラルキーの高位、などの印象から生まれている意味です。
左と右のカードは「過去と未来」「すでに影響力を失った質問者の後ろにあるもの、質問者の前にある次の展開」などを表します。これは左右を時間軸と関連付ける感受性の働きです。著者により、どちらが過去でどちらが未来かは逆転し、人による感受性の揺れが現れています。
伝統的な方法では、過去と未来の位置は固定されておらず、シグニフィケイターカードの人物がどちらを向いているかで過去/未来の位置が決まります。シグニフィケイターが左向きなら、右側に過去のカード、左側に未来のカードが置かれます。右向きならその逆です。シグニフィケイターの人物の目線の先が未来、背後が過去になる訳です。この場合も、前は未来、後は過去という前後の位置関係による感受性が働いています。
(リーダーによっては、過去と未来の配置を質問者の感受性に合わせる人もいるようです。それを確かめるために、リーディングの前に「今日はここに来る前になにをしてきましたか?」など過去に関する質問をして、その人がそれを思い出そうとするとき、右か左かどちらの方向へ顔を向けるかを観察する。過去を思い出すときに顔を向けた方向が、その人にとって過去を意味する方向だという訳です)
次の7〜10枚目のカードは、手前から奥に向けて縦一列に置かれます。近いものから遠いもの、という空間への感受性が働きます。時間軸として感受性が受け取れば、10枚目のカードが一番未来で、それに向けて時間の進行があると受け取ることもできます。
一番手前、7枚目のカードは「自分から見た自分自身、本音、現在の質問者の心境」などを意味します。自分に一番近い、手前にあるカードなので、自分自身に最も近い要素、つまり自分そのものがここに配置されています。
次の8枚目は「周りの環境、周囲の人や状況、他人からどう見られているか」です。自分より一歩先に遠のいたので、自分以外の人や環境が配置されています。
9枚目は「目標達成に関する期待と恐れ、将来の気持ち、これから起きる予期せぬ事態」などを示します。さらに遠い場所にあるカードであり、まだ実現してはいないけれども、予想される気分や、先の事態が示されます。
10枚目の意味は「結果」です。一番奥の遠くにあるカードなので、一番遠くの未来です。このようにして、7〜10枚目の縦一列は、自分からはじまり、他者、先の事態やそれへの懸念、結果、と前進していくのです。
こうして見ていくと、ケルト十字の配置の意味が理解しやすくなりました。日常的な空間認識が作る感受性によってポジションの意味が設計されているとわかります。
スプレッドの設計時だけでなく、カードを引いた後にも空間へ感受性は働いている
スプレッドのデザインをするときにだけ、空間への感受性が働いている訳ではありません。リーディングの際にも、出たカードによってこの感受性は働いています。
さきほど「シグニフィケイターの向きによって過去と未来の配置が変わる」という技法があったように、リーディングで登場した人物の向きによって、過去と未来を示す方向が変わる、という解釈もありえます。
この空間への感受性へ意識的になることによって、リーディングでの意識も変わってくるかもしれませんね。
参考文献
最近の活動
●10/20マイカレ秋の土用入りスプレッド、トライしてくださったみなさまありがとうございました! 夏の疲れが癒やされますように。次は11/8に引くためのスプレッドがありますのでそちらもぜひ。
●本誌未掲載の、ハロウィンスプレッドもあります。10/31のハロウィンにぜひやってみてね!
●11/7月は二十四節気「立冬」です。二十四節気の魔法の水のワークをどうぞ。
●11/8火は満月・月食です。新月の問い満月の答えのワークをどうぞ。
●11/2水19:30よりメアリー・K・グリーア「タロットワークブック」zoom読書会です。タロットサークル内の活動ですが、メンバー外の方で参加希望の方はお知らせください。本がない、英語版しか持っていない、途中参加の方もどうぞ。
さきほどAmazonでこんな馬鹿な値段をつけられていたのを発見し、怒りが湧いてきました。
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