エレメンタル・ディグニティのバリエーション
タロットを四元素の相性関係から読み解く技法「エレメンタル・ディグニティ」のバリエーション。そしてカードの2つ目の元素を示す「エレメンタル・アフィニティ」について。
前回、黄金の夜明け団のエレメンタル・ディグニティの技法について紹介しました。エレメンタル・ディグニティとは、各カードに対応する元素(火・水・風・地)の相性から、カード同士の力関係を見ていく方法です。
今回は、黄金の夜明け団のエレメンタル・ディグニティから派生していったバリエーションを見ていきます。
興味深いのは、海外の解説書では黄金の夜明け団のものが解説されることがほとんどなのですが、日本の著者からはいくつか別々の考え方が生まれているという点です。日本では欧米ほど黄金の夜明け団の考え方が支配的ではない、ということが示されているのかもしれません。そんなわけで、今回ご紹介するバリエーションは日本の著者のもののみです。
この記事での興味は元素同士の関係性です。そのため、火・水・風・地のそれぞれを各著者がどう解釈しているかは取り上げません(これはこれで大変興味深いテーマですが)。あくまで、元素と元素が並んだときにどういう力関係が生まれるか、という関係性の質にだけフォーカスします。
各元素の解釈については、ひとまず今回はクロウリーのこの言葉を引用するにとどめておきます。
「元素(エレメント)」という言葉は化学元素のことではない。一連の概念を指し、いろいろな特性、特質を概括しているのである。
学生に言葉の意味を解き明かすようなやり方で、これらの術語を定義することは、ほぼ不可能に思える。絶えず繰り返し考え、その術語が自分にとって何を意味するか、自分で発見しなくてはならない。当然、皆が同じ考えに到達するわけではない。だが、ある考えは正しく、別の考えは間違っているというのではない。誰もが、全く自分一人だけに属する宇宙をもっていて、その宇宙は誰か他の者の宇宙と同一でないからである。(『トートの書』)
以下、バリエーションを紹介していきますが、各著者は「エレメンタル・ディグニティ」という用語を使っている訳ではありません。むしろこの用語が使われる場合は黄金の夜明け団のシステムをそのまま説明するときなのですが、「元素と元素の関係によりカードの意味の強弱が変化する」点では共通するため、ここではひっくるめて「エレメンタル・ディグニティ」として扱います。
黄金の夜明け団
簡単におさらいをしておきます。
同じ元素同士は大変強い
風と地、火と水は相克
風は水と火に対して友好的、火は風と地に対して友好的
黄金の夜明け団のエレメンタル・ディグニティは、
火:熱、乾
水:冷、湿
風:熱、湿
地:冷、乾
というアリストテレスの熱・冷・乾・湿の考え方を取り入れて相性が決定されています。
松村潔─シンプルな火&風と水&土の対立
同じスートは強調
火・風グループと水・土グループは仲が悪い
○:強調/✕:仲が悪い
松村先生のものはシンプルで、「火&風 VS 水&土」の図式です。前者は熱、後者は冷なので、「熱・冷・乾・湿」から熱と冷の対立だけが採用されている、と言えます。
単純なため、エレメンタル・ディグニティに慣れていない人にも扱いやすいシステムです。
藤森緑─対立やサポートにも強弱がある
風と地、火と水は対立。後者の方がより強い対立
風と火は助け合う。風から火への方がより強いサポート
水と地は助け合う。水から地への方がより強いサポート
火と地、風と水は影響が少ない
✕✕:強い対立/✕:対立/◎:強くサポート/○:弱くサポート/-:影響が少ない
藤森先生のものは対立やサポートに強弱が決まっているのが特徴です。風と地の対立よりも、火と水の対立の方が強い対立なのです。
助け合う関係にも、どちらかがもう一方に対してより強く助ける、というサポート力の差があります(熱・冷が共通する元素同士の間にはサポート関係があり、その中でも湿の方が乾をより強くサポートする、という図式)。
黄金の夜明け団のシステムより、もうちょっと繊細に読み解きたいときに活用できそうです。
ルナ・マリア─非対称的な独自の影響関係
風は火と水に強く影響を与えやすい
水は地に強く影響を与えやすい
地は風に強く影響を与えやすい
火と水は互いに打ち消し合う
火と地は影響を及ぼし合わない
✕:場合によって打ち消し合う/強:強い立場、影響を与える/弱:弱い立場、影響を受ける/-:比較的影響が少ない
ルナ・マリア先生のものはかなりユニークで、黄金の夜明け団やアリストテレスの影響を感じられません。火は何に対しても強さを持たず、風は火と水の両方に対して強い、という非対称性も特徴です。なにかの参照から生まれたシステムというより、自然現象としての火・水・風・地の考察によって元素の相性が決まっていった感じがします。
前回の記事では省略した、コートカードの持つ2つの元素の両方を考えるという記載もあります。さらに元素だけでなく、大アルカナ>コートカード>数札、というカードの種類による力関係も採用されています。
自分なりにしっくりくるエレメンタル・ディグニティを考えてもいい
ここで取り上げた著者の方々は、考察や実践の中でご自身なりのエレメンタル・ディグニティを作り上げてきたのだと思います。最初に引用したクロウリーの「ある考えは正しく、別の考えは間違っているというのではない」という言葉通り、そのリーダーの宇宙観がカードの読み方に反映されているのです。
みなさんがエレメンタル・ディグニティを使う場合、黄金の夜明け団のものでも、これらの著者のスタイルでも、どれか自分にしっくり来るものをひとまず採用してみて、実践と考察の中で自分自身に対する説得力を高め、あるいは疑問がある点は改良し、自分の中で機能するエレメンタル・ディグニティを作り上げるのを目指すとよいでしょう。
エレメンタル・アフィニティについて
ルナ・マリア先生のところで少し話が出たので、前回の記事で省略した「コートカードは2つの元素を持っている」という概念についても紹介しておきます。これはエレメンタル・アフィニティと呼ばれる考え方の一部です。
エレメンタル・アフィニティとは、パピュス『ボヘミアンのタロット』の中で提示される考え方です。小アルカナはスート以外にも、数字や階級によって第2の元素が定められています。
火:キング、エース、4、7
水:クイーン、2、5、8
風:ナイト、3、6、9
地:ペイジ、10
この数字や階級によって決められる元素がエレメンタル・アフィニティです。
例えばカップのエースなら、カップのスートに対応する元素は水、エースのエレメンタル・アフィニティは火なので、「水の火」となります。ワンドの9だったら、ワンドのスートは火、9のエレメンタル・アフィニティは風なので、「火の風」です。
スートによって示される元素は本質的なエネルギーを示します。エレメンタル・アフィニティはスートの元素の領域の中で、どのようにその元素のエネルギーの性質が表現されるかを示します。カップのエースの「水の火」であれば、水の示す領域の中で、火的に活動する。感情の領域の中で、情熱的に活動する、となります。
現在でも一般的なのはコートカードのエレメンタル・アフィニティのみで、数札のものはあまり聞きません。これはおそらくパピュスの考え方から、コートカードの部分だけを黄金の夜明け団が採用したからではないかと思われます。
参考文献
アレイスター・クロウリー『トートの書』
松村潔『クラウドスプレッドタロットリーディング』『タロットの神秘と解釈』
藤森緑『基礎とリーディングが身につくタロットLESSON BOOK』
ルナ・マリア『いちばんやさしいタロットの教科書』
ベネベル・ウェン『ホリスティック・タロット』
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